空きびんがもう一度輝く場所「岡崎ガラス工房葵」

公開日:2025.12.19     暮らし
岡崎市には、空きびんに再び命を吹き込み、新たな形へと生まれ変わらせている場所があります。
それが、岡崎ガラス工房葵です。

岡崎ガラス工房葵は単なるリサイクル施設ではなく、私たちが分別することで「ごみ」が「価値ある存在」へ生まれ変わることを肌で感じさせてくれる場所です。

今回は、リサイクルを身近に感じてもらうための取り組みを、40年以上にわたり続ける岡崎ガラス工房葵についてご紹介します。

岡崎市のごみの現状

岡崎市の家庭から出る令和6年度の年間ごみ総排出量は約7万t。
7万tという重さは、アジアゾウに換算すると約1万4千頭分、東京タワーに換算すると約2本にもなります。

さらにその中身をみると、なんと、可燃ごみの約35%、不燃ごみの約50%が、本来はリサイクルできる資源物とのこと。

質の高いリサイクルのためには、市民一人一人の正しいごみ分別が不可欠ですが、残念ながら現状では多くの「資源」が埋もれてしまっています。

岡崎ガラス工房葵とは

岡崎ガラス工房葵は、親善都市・沖縄県石垣市の、空きびんを原料としながら伝統工芸の域へと昇華された「琉球ガラス」を参考に、1983(昭和58)年、まだ「リサイクル」という言葉が今ほど身近でなかった時代に、全国の自治体に先駆けて誕生しました。

主な活動は、市内で回収された空きびんを原料としたガラス工芸品の制作や、ガラス工芸の体験講座。

工房でガラスに触れることにより、リサイクルを身近に感じていただくことを目的とし、空きびんを再利用したガラス工芸による創造や、市内外から訪れる方との制作体験を通じた交流・発信の場として活動を続けています。

ガラス工芸品の販売

工房で制作された作品は、市内の複数の施設で販売しています。

特に人気のある作品は、毎年販売される干支の置物。

季節限定の商品の制作は、基本的に1つのデザインを立案したスタッフ1人で担当するというスタイルですが、干支シリーズだけは特別です。
需要が高く、毎年多くの数が求められるため、工房スタッフ全員が協力して制作にあたります。
新聞など各種メディアで取り上げられ、県外からの電話注文が相次ぐほどの人気ぶりです。

取材当日も、干支の置物を求めて訪れるかたが見られました。
手作りのため、一体一体に個性があり、お気に入りを選ぶ楽しさもあります。

空きびんがガラス工芸品に生まれ変わるまで

ごみとして集めた空きびんは、どのような工程を経て、ガラス工芸品として生まれ変わるのでしょうか。

まず、ごみとして集めた空きびんを選別し、使用する分のみ工房に運び込みます。
工房ではラベルなどを取り除き、丁寧に洗浄します。
その後、細かく破砕し、ガラス工芸がしやすくなる調合材と一緒に、1,400℃の溶解炉でじっくりと溶かしていきます。

真っ赤に溶けたガラスは、金属の棒に巻き取られ、少しずつ形を整えながら、ひとつの作品へと姿を変えていきます。
干支の置物「午」制作風景
溶解炉で溶かしたガラスを、金属の棒に巻き付けます
少しずつ形を整え
何度も加熱しながら制作を進めます
別の棒にガラスをとって、たてがみや鞍をつくっていきます
仕上げに目や轡(くつわ)を描いて
棒から切り離したら、尻尾部分に新しく巻き付けたガラスをたらして完成!制作時間は一体30分程度でした。

リサイクルガラスの特徴

リサイクルガラスの作品は、淡くやわらかい若草のような色味が特徴です。
これは空きびんに含まれる微量な不純物によって生まれる色で、リサイクルガラスならではの個性です。
リサイクルガラスの持つ温もりや味わいを大切に、スタッフの皆さんは一つひとつ丁寧に作品を仕上げています。

しかし、リサイクルガラスは、ガラス工芸用ガラスと違い、扱うのが難しいとのこと。

びん用のガラスは、効率よく工程を終えることで大量生産をするために冷めるのが非常に早いことが特徴で、リサイクルガラスもこの特徴を受け継いでいます。
そのため、素早く成形し、必要に応じて焼き直し用の炉で再加熱しながら制作を進める必要があります。
専門学校でガラス細工を学んでいた工房スタッフのかたでも「最初は扱いにとても苦労した」と話します。

工房には子どもから大人まで幅広い人が体験に訪れるため、誰でも扱いやすいよう調合材を加えるなどして工夫しているそうです。

ガラス工芸体験

工房では、溶けたガラスに息を吹き込む「吹きガラス体験」などのホットワーク(溶けたガラスでの体験)のほか、ガラスをカットして重ね、電気炉で焼成する「フュージング体験」など、だれでも楽しめる体験も実施しています。(すべて予約必須)

かつては、市内小学生の社会科見学のコースにもなっており、当時見学に訪れた子が大人になって再び工房に訪れてくれることもあるのだとか。
「活動がしっかり伝わっていることを実感できてうれしい」と、工房スタッフのかたは話します。

環境意識へのきっかけの場として

岡崎ガラス工房葵は、リサイクルガラスを利用して作品をつくるためだけの施設ではありません。

実際に、工房で再利用される空きびんの量は、全体から見ればほんのわずかにすぎません。
しかし、岡崎ガラス工房葵が大切にしているのは、リサイクルされる量そのものではなく、「分別すれば、こんな素晴らしいものに生まれ変わるんだ」と工芸品や体験を通して実感してもらうことです。

ここで溶かされ、新しい形を与えられたガラスは、再び市民の手に渡り、淡くやわらかな優しい光を今日も放ちます。
岡崎ガラス工房葵は、環境を考えるきっかけを与えてくれる場所として、これからもあり続けるでしょう。
<施設情報>
■岡崎ガラス工房葵
住所:岡崎市高隆寺町字阿世保5番地(リサイクルプラザ内)
お問い合わせ先:0564-23-6723 (ごみ対策課)
定休日:土・日・祝日、年末年始(12月29日~1月3日)
営業時間:9:00~16:00