大正14年創業の超レトロ銭湯「龍城温泉」の魅力

公開日:2017.08.01     "〇にナる" 岡崎まちものがたり
昔ながらの「銭湯」(普通公衆浴場)として、岡崎市内で唯一営業を続けている「龍城(たつき)温泉」。“レトロ好き”な若者の間で近年密かに注目されている、この銭湯の魅力に迫ります。
  • 高く伸びる煙突が目印

    高く伸びる煙突が目印

  • いかにも銭湯らしい、富士山が描かれたのれん

    いかにも銭湯らしい、富士山が描かれたのれん

  • 設置された当時は広告料がかからず、商売をしている人が持ってきては広告をはめていったそう

    設置された当時は広告料がかからず、商売をしている人が持ってきては広告をはめていったそう

  • 常連さんが置いているお風呂グッズでひしめきあう棚

    常連さんが置いているお風呂グッズでひしめきあう棚

  • 女湯の脱衣所。仕切りを挟んで反対側が男湯だ

    女湯の脱衣所。仕切りを挟んで反対側が男湯だ

創業は大正14年、当時の姿を今に残す
岡崎城から徒歩10分程度、図書館交流プラザりぶらからはわずか5分という立地にある龍城温泉。静かな住宅街のなかに、映画のセットのような木造の建物がたたずんでいます。

創業は大正14年。現在の経営者である藤井さん夫妻は三代目にあたります。ご主人の藤井公人(きみひと)さんは、昭和35年にこの龍城温泉の営業を引き継ぎました。「他人から他人へ渡っているため、創業当時の詳しいことはわからない」と番台の藤井三千代さんは言います。
  • 昭和38年、21歳のときにここへ嫁いできてから、番台に座り続ける藤井三千代さん

    昭和38年、21歳のときにここへ嫁いできてから、番台に座り続ける藤井三千代さん

  • ガラス戸を開けると、その先に浴室がある

    ガラス戸を開けると、その先に浴室がある

  • 龍城温泉の長い歴史が感じられる、タイル張りの浴室

    龍城温泉の長い歴史が感じられる、タイル張りの浴室

客が「懐かしい」とほころぶ昭和の雰囲気をそのままに
内装のタイルの張り替えや土壁の塗替え、庇の修理などはこれまで行われてきましたが、建物のかたちは創業当時のまま。富士山ののれんをくぐり建物内に入ると、そこは昭和の世界!昭和30年代の広告が描かれた木製の脱衣箱や鏡、お釜型ヘアドライヤーなどが、当時のままの形で残されています。

お釜型ヘアドライヤーは今も現役で活躍中。男湯のドライヤーは1回10円で、女湯のドライヤーは男湯のものより少しだけ型が新しいため、20円という価格設定。男湯の脱衣所には、あんま器もあります。

これらは三千代さんのこだわりで、古風な雰囲気を変えたくないと、なんでも昔のまま、そのままにしているそう。番台の電気も豆電球のタイプを取り付けたり、脱衣所の床にはゴザをひいたりと、この雰囲気に合うように選んでいます。

浴室へ入ると、2つに区切られた大きな浴槽がひとつ、奥には変わり湯とぬる湯があります。左右の両壁には蛇口とシャワーが。大きな窓もあり、広々としています。
  • 浴槽脇にある蛇口から水を出して温度を調節しよう

    浴槽脇にある蛇口から水を出して温度を調節しよう

龍城温泉といえば…お湯が熱い!?
ところで、龍城温泉ファンは一同が声を揃えて「お湯が熱い!」と言います。そのことを三千代さんに問うと、「スーパー銭湯だったら、一定の温度で浴槽に湯がそそがれると思うけれど、うちは湯と水が別々のところから出るから。熱すぎたら蛇口から水を出して、自分で好きな温度に調節してね」と教えてくれました。
  • ご主人の公人さんが薪をくべる様子

    ご主人の公人さんが薪をくべる様子

  • 釜の温度計でお湯の温度をチェックしている

    釜の温度計でお湯の温度をチェックしている

薪でお湯を沸かすからスルスルとした肌触りに
湯は、ご主人の公人さんが薪をくべて沸かしています。「夏場は、主人も暑い、暑いって言いながら仕事している。普通の人なら倒れちゃうよ。干からびちゃう(笑)」と三千代さんは笑って話しますが、本当に大変な作業です。

薪で沸かした湯は柔らかく、スルスルっと肌になじみます。浴槽につかると釜で暖められた湯が身体の奥まで浸透してくるようで、芯から温まるのを実感できます。
  • 営業開始時間の少し前から一番湯が好きな常連さんが訪れ「早くのれんをかけて」とせかす

    営業開始時間の少し前から一番湯が好きな常連さんが訪れ「早くのれんをかけて」とせかす

  • 銭湯の仕事は休み無しだ。それでも、「仕事があるから元気でいられる」と話す三千代さん

    銭湯の仕事は休み無しだ。それでも、「仕事があるから元気でいられる」と話す三千代さん

タクシーに乗って足を運ぶ常連さんの姿も
お客さんは、近所の人はもちろん、遠くから訪れる人も多いそうです。なかにはタクシーでやって来る常連さんの姿も。お客さんは男性が多く、女性は1割ほどだとか。

最近はインターネット上での口コミや動画配信などにより、若いお客さんが増えてきたといいます。三千代さんは、「みんな、懐かしい、ほっとすると言ってくれる。昨日は名古屋市の男の子たちが、田原市でサーフィンをした後に寄ってくれたの」とにっこり。
  • 住宅街の中に、にょきっと伸びる龍城温泉の煙突

    住宅街の中に、にょきっと伸びる龍城温泉の煙突

この建物を残したい
若い客層が増えてきたことを喜びつつも、「主人と2人でやっているから、いつまで続けていけるかはわからない。できれば長く続けたいけれど」と三千代さんは言います。

龍城温泉の建物については、「跡取りがいないので修理の手は入れていないけれど、壊すのは勿体ないと思っている。岡崎の二十七曲がりがこのあたりを通っているし、岡崎城が近いから観光資源としてもいいかもしれない。個人でどうにかするのは大変だろうけど、できれば、このまま活かしたいね」と語りました。

藤井夫妻の息子さんは、龍城温泉から徒歩5分ほどの場所で「おふろ」という居酒屋を営んでいます。「ここを継げなかったから、名前だけでも継ごうって思ってくれたのかわからないけど、嬉しいこと。開業するとき、なんて名前つけるかなぁって見とったら『おふろ』って!」と笑顔で話してくれました。
◯参考
中日新聞(2017年5月22日付)、愛知県公衆浴場組合
※公衆浴場法では、銭湯は「普通公衆浴場」、スーパー銭湯は「その他の公衆浴場」と分類されます。本記事の「銭湯」は前者を指します。
◯龍城温泉data
■電話:0564-22-7316
■営業:16:00〜21:00
■休み:毎月5・10・15・20・25・30日
■駐車場:3台(龍城温泉から少し離れた場所にあるので、事前に確認を)
■料金:中学生以上380円、小学生150円、未就学児70円


〇関連学区まちものがたりリンク
06連尺学区まちものがたり
◯ライター:前田智恵美
1984年、宮城県石巻市生まれ。東京のIT企業に勤めた後、結婚を機に夫の地元である愛知県岡崎市へ。自動車部品メーカー広報、出版社勤務を経てフリーに。キャンプと旅行が好きです。

インフォメーション

場所:愛知県岡崎市田町35