覚えた噺(はなし)が
みんなにウケるのがうれしくて

公開日:2018.01.26
  • 落語芸術協会所属 噺家 桂鷹治 さん
  •     落語
今回は落語芸術協会に所属し、噺家として活躍中の桂鷹治さん(28歳)をご紹介します。

覚えた噺(はなし)がみんなにウケるのがうれしくて

2016年に“二ツ目”昇進を果たし、都内を中心に活動中の噺家(落語家)、桂鷹治(かつら たかじ)さん。鷹治さんと落語との出会いは、岡崎市立男川小学校にあるサークルの落語クラブ。最初はいやいやサークルに通っていたみたいですが、「覚えた噺(はなし)がみんなにウケるのがうれしくて、気がついたら結局ずっと続けていました」と、笑いながら鷹治さんは話します。
ただ中学・高校時代は、自分が将来、噺家になるなんて考えてもおらず、落語よりも野球部や吹奏楽部、生徒会などの活動に熱中していたそうです。
そんな鷹治さんが本格的に落語と向き合いはじめたのは、大学生のとき。
「岐阜大学に進学して、軽い気持ちで落研(落語研究会)に入ったんです。4年間、落語が楽しめればいいかなと思って。そしたら部員が5人しかいなくて、いきなり部活を背負って立つ立場になったんです(笑)。本格的に落語と向き合ったのは、それからですね」
そして、大学3年次の1月には、桂平治・現、十一代桂文治(かつら へいじ・かつら ぶんじ)さんのもとへ弟子入りのお願いに行き、大学卒業後に上京。“前座見習い”として鷹治さんの噺家人生が始まりました。

まずは、“前座見習い”からスタート。そして、“前座”へ

最初に学ぶのは、太鼓の叩き方。寄席では、開場の一番太鼓、開演前の二番太鼓、出囃子、終演の追い出し太鼓を生音で“前座”が叩くのです。
また、入れ代わり立ち代わり楽屋入りする師匠方にお茶を出したり、着物をたたんで風呂敷で包むのも前座の仕事。一人ひとり違うお茶の好み、着物のたたみ方、風呂敷の包み方もすべて覚えます。
太鼓や着物だけでなく、もちろん落語も覚えていかなければなりません。古典落語と呼ばれる噺は300席とも500席とも言われる数があります。それを一席ずつ、師匠と対面でIC レコーダーで録音させてもらい、覚えたら師匠に見せて、許可が下りると人前でその噺をできるようになります。鷹治さんは、40日間の見習い期間を経て、前座名“たか治”として“楽屋入り”をし、正式な“前座”となりました。そして、初高座は、2012年6月3日。浅草演芸ホールにて、演目は『子ほめ』でした。

「15年の下積みを経て、やっと一人前の世界です」​

“前座”は平均して4年ほど。そのあいだは、師匠方の身の回りのお世話や太鼓など鳴り物などの楽屋修業をします。その次が、“二ツ目”。鷹治さんは、2016年に“二ツ目”昇進を果たしました。「前座は着流ししか着られませんが、“二ツ目”は紋付(家紋のついた着物)や羽織を着たり、袴を着けることができます。それ以外にも、名前入りの手拭いを作ったり、落語会を主催したりできるようになります。ただ“二ツ目”は、自分で責任をもって噺を覚え、お客さんを増やしていかなければなりません」
“二ツ目”として約10年ほど修業すると、ようやく“真打”です。“真打”になると、弟子をとることができ、寄席でトリを務めることができます。鷹治さんは言います、「15年の下積みを経て、やっと一人前、やっとスタートラインに立てる世界です」
“真打”になってからも落語の修業は続きます。
「噺家人生は、次々に新しい噺を覚えてはお客さんの前でやる、その繰り返し。終わりのない学生時代の定期試験のようなものです。それが嫌で落語家になったはずなんですけどね(笑)」
苦笑いしながらも、鷹治さんの言葉は未来を見据えています。

地元岡崎への想い

「今後は“真打”に向けて稽古を積み、たくさんネタを増やしていきたいです。そして、地元岡崎でも知られた存在になれるよう、岡崎での活動を増やしていこうと思っています。男川小学校の落語クラブは創部から30年近く、今も続いています。市民会館では、フレッシュな小学生や市内外の大学生落研による落研寄席が開催されていて、2018年から岡崎市甲山会館に場所を移し、2019年には10周年。他にも岡崎市甲山会館の甲山落語会、せきれいホールの岡崎せきれい寄席など、岡崎市は落語が盛んな街です。定期的な落語会が多く、色んな噺家が出演しているので、是非お近くの落語会に足を運んで、直に落語の楽しさを体験していただきたいと思います」

「落語は、ライブであり、“一期一会”」

歌舞伎やお芝居には書き割り(風景や建物が描かれた背景画)があり、役者は衣装を着て演技をします。一方、落語には、そういうものが一切ありません。ひとりの人間が着物を着て座って、ただ喋っているだけ。ひとりでいろんな役を演じ、身振りや手振り、小道具も扇子と手拭いだけで物語を表現して進めます。そして、お客さんが頭のなかで物語を想像して補完してもらうことで完成する。それが落語。江戸から明治期が舞台の噺が多いですが、楽してお酒が呑みたい人や、ついつい知ったかぶりをしてしまう人などをテーマに、現代と変わらない人々の営みが描かれています。

「落語は、とてもシンプルな伝統芸能だと思います」と、鷹治さんが話すのも納得です。そして鷹治さんは、落語の魅力を“一期一会”という言葉で表現しています。「その日の落語はその日しか聴けないんです。正にライブであり、“一期一会”。同じ噺も人によって少しずつ違う、また同じ人が話しても日によって違います。その日その場所に来たお客さんと落語家の共同作業なんです。それが私たち噺家のやりがいや楽しみでもありますし、お客さんの楽しみにもつながると思います」

これからも、鷹治さんの噺が多くの人を笑顔に変えていくことでしょう。