岡崎の2つの酒蔵-柴田酒造場

公開日:2018.12.17     "〇にナる" 岡崎まちものがたり
岡崎市には酒蔵が2軒あります。そのひとつ、柴田酒造場は標高約350mの自然豊かな下山地区にあって、江戸時代後期から続く酒蔵。山里の四季が織りなす風土に抱かれながら、丹精を込めた日本酒を育んでいます。
  • 里山ののどかな風景が広がる下山地区

    里山ののどかな風景が広がる下山地区

  • 硬度0.2の超軟水「神水」は、ミネラル分が少なく仕込みに高い技術が必要

    硬度0.2の超軟水「神水」は、ミネラル分が少なく仕込みに高い技術が必要

  • 7代目の柴田卓男さん(前列左)と蔵人たち。昭和30年4月撮影

    7代目の柴田卓男さん(前列左)と蔵人たち。昭和30年4月撮影

  • 昭和40年代、機械化を進めていた様子がうかがえます

    昭和40年代、機械化を進めていた様子がうかがえます

  • 保久八幡宮の祭礼で玉串を捧げる祭壇に見える「孝の司」。無くてはならない地元の酒

    保久八幡宮の祭礼で玉串を捧げる祭壇に見える「孝の司」。無くてはならない地元の酒

  • 銘柄『孝の司』の「超辛口」(左)と「しぼりたて」(右)

    銘柄『孝の司』の「超辛口」(左)と「しぼりたて」(右)

恵まれた自然と、地域に支えられた酒造り
天保元年(1830年)創業。地主であり庄屋であった柴田家が余剰米で酒を造ったことに始まった柴田酒造場。「神水(かんずい)」と呼ばれる、全国的にも珍しい超軟水を仕込み水に使用するなど、澄んだ水と空気に恵まれた自然環境を生かした酒造りを行っています。

この地域では、馴染みの地酒として、また、祭り、儀礼、贈答などの大切な場面に欠かせない日本酒として、蔵の代名詞といえる銘柄『孝の司』が親しまれてきました。地域に愛され、そして、支えられてきた酒蔵です。その絆は、明治の終わりに柴田家が東京へ進出した際、地元有志が協力して酒蔵を守ってくれたという逸話からも窺い知ることができます。
  • 柴田佑紀さん。蔵と地域を盛り立てていきたいという意欲にあふれていました

    柴田佑紀さん。蔵と地域を盛り立てていきたいという意欲にあふれていました

  • 『众』を仕込むために2016年(平成28年)の秋に完成した众醸蔵

    『众』を仕込むために2016年(平成28年)の秋に完成した众醸蔵

  • ひとつ屋根の下に人々が集まった状態を表す「众」の文字。酒造りへの意気込みを表現

    ひとつ屋根の下に人々が集まった状態を表す「众」の文字。酒造りへの意気込みを表現

  • 麹米を作るための製麹の作業。手前は若手杜氏の伊藤静香さん

    麹米を作るための製麹の作業。手前は若手杜氏の伊藤静香さん

  • 温度と湿度を高く保ち、最適な状態を維持する麹造り。昼夜を問わず目が離せない工程

    温度と湿度を高く保ち、最適な状態を維持する麹造り。昼夜を問わず目が離せない工程

  • 乳酸で酸性を保ちながら酵母を増やす酒母造りの工程。生酛系と速醸系の分かれ道

    乳酸で酸性を保ちながら酵母を増やす酒母造りの工程。生酛系と速醸系の分かれ道

  • 現在の全社員の集合写真。前列左から8代目、7代目、前杜氏の高橋さん

    現在の全社員の集合写真。前列左から8代目、7代目、前杜氏の高橋さん

新銘柄開発のタイミングで、老舗に吹き込む新たな風
「日本酒らしい深みと通好みの特徴があり、あえて香りは控えめに設計されています」と、話題の新銘柄『众(ぎん)』について教えてくれたのは、副社長の柴田佑紀(ゆうき)さん。生酛(きもと)造りの『众』は、社長であり8代目当主の柴田秀和さんの念願だったといいます。「濃厚な料理にも負けない、それでいて後味がスッキリした豪快な酒を造りたい」との思いを抱いていた秀和さんは、日本酒本来の魅力の詰まった力強い酒は手間のかかる日本古来の手法でしか実現できないとの考えに至り、新たな仕込み蔵を建造。自然の乳酸で酒母を作る生酛造りに挑戦し、2016年(平成28年)、ついに『众』は誕生したのです。食事と合わせる食中酒という考え方が広がりつつある市場での評判も上々で、全国から注目を集めているそうです。

「今、うちの蔵は代変わりが進んでいるんです」。佑紀さんは、8代目の長女で高校の同級生である充恵さんと結婚し、昨年、前職の退職を機に入社。幼い頃から家業を見つめてきた充恵さんとともに酒蔵を継ぐ決心をしたそうです。この柴田家の変化と時を同じくして、酒造りの責任者である杜氏の引継ぎ、その下で働く蔵人の若返りも進んでいるのだとか。「若手は経験が浅いという弱点があるかもしれませんが、それを上回る柔軟性と勢いを持って元気な蔵にしていきたい。社長がそれを見守ってくれているので心強い」と、活気づいている蔵の様子についても教えてくれました。
  • 自社の魅力を紹介するため、アメリカへも。日本酒業界に携わる人たちとの懇親会の様子

    自社の魅力を紹介するため、アメリカへも。日本酒業界に携わる人たちとの懇親会の様子

  • ゆくゆくは地域で育てられる米を使って、生酛・山廃の日本酒も造っていきたいそうです

    ゆくゆくは地域で育てられる米を使って、生酛・山廃の日本酒も造っていきたいそうです

  • 人気が高く、贈答にも最適な日本酒のラインナップ

    人気が高く、贈答にも最適な日本酒のラインナップ

  • 敷地内にある販売所兼事務所。こちらで直接購入することが可能です

    敷地内にある販売所兼事務所。こちらで直接購入することが可能です

人の声を聞き、地域ととも歩み、さらなる挑戦へ
今後の抱負について尋ねると「もっと世界に通用するお酒を造りたい」とのこと。前職でアメリカへ赴任した経験を持つという佑紀さんならではの海外進出の話かと思いきや「世界に評価されるお酒を造ることで、お米を作る地域のモチベーションもあがって、地域への恩返しになると思うんです」と、“地域と一緒にがんばりたい”という気持ちを語ってくれました。ほかにも地元の米を使った商品開発など、地域とともに歩むプランを思い描いているのだとか。また「造り手よがりにならないように、お客様のニーズを捉えた酒造りを行いたい」と、販売会や蔵開き「众醸祭(ぎんじょうさい)」などのイベントにも積極的に取り組んでいるそうです。

酒造りと真摯に向き合って古来の製法に立ち返った社長と、新風を吹き込みながらも伝統を継ぐ副社長。挑戦を続ける山里の酒蔵から目が離せなくなりそうです。
◯柴田酒造場data
■電話:0564-84-2007
■時間:8:00~17:00、土曜・祝日は10:00~16:00
■休み:日曜、土曜・祝日不定休
■HP:https://www.shibatabrewery.com/
※最新情報(イベント、販売商品など)等の詳細はHPでご確認ください。
○関連学区まちものがたりリンク
47下山学区まちものがたり
COLUMN
「生酛(きもと)と山廃(やまはい)」

「生酛(きもと)と山廃(やまはい)」

酒母造りの工程で時間短縮のために乳酸を加える「速醸酛(そくじょうもと)」という作り方に対し、自然の乳酸菌の力によって乳酸を作る「生酛」と「山廃」。自然の乳酸菌を育てるという工程があるため、手間も時間もかかる昔ながらの製法です。「生酛」には米粒を丁寧にすり潰す「山卸」という工程があり、「山卸」を廃止した作り方を「山廃」といいます。

インフォメーション

場所:愛知県岡崎市保久町字神水39番地