犬にゆかりのある２つの神社

まずは犬の頭が祀られている糟目犬頭（かすめけんとう）神社の話から。社伝によれば創建は701年（大宝元年）、もとは上和田町の糟目森崎に鎮座していましたが、矢作川の洪水により、現在の宮地町に移されました。

神社の名の由来には犬にまつわる伝説が関係しています。1346年（貞和2年）、上和田城主の宇都宮泰藤（やすふじ）が白い犬を連れて鷹狩に出掛けます。神社の境内にある大杉にもたれて休んでいると、木の上から大蛇が今にも襲いかかろうとしていました。それを見つけた白い犬は危険を知らせるために激しく吠え立てました。そんな危険が迫っているとはつゆ知らず、泰藤は眠りを妨げられたことに怒り、「無礼者」と言って、白い犬の首を刀ではねてしまいます。その首は高く飛び上がって大蛇に噛み付き、泰藤は命拾いすることができました。白い犬が吠えた理由を知った泰藤は犬の首を手厚く葬り、犬頭神として祀りました。

それでは糟目犬頭神社に出かけましょう。立派な石柱から参道を歩いてくと青味がかった石造りの鳥居が見えてきます。鳥居は岡崎城主を務めた本多豊後守康重（ほんだぶんごのかみやすしげ）が1605年（慶長10年）に寄進したものです。岡崎の石製品といえば御影石（みかげいし）ですが、この鳥居は福井の足羽山（あすわやま）で産出された笏谷（しゃくだに）石で造られています。

鳥居と同時期に寄進された狛犬と唐猫も笏谷石で造られています。狛犬は雌雄の一対で、ロングヘアが特徴的。唐猫は高さ約21.5㎝の小ぶりなもので、これも狛犬の一種です。どちらも市の文化財として大切に保管されているため、拝見することはできません。

もう１つ、興味深いのは社殿前の石灯籠の台座に刻まれた「犬頭館」の名。これは繭の生産所の名前で、現在のＪＲ岡崎駅前のＡＢホテル岡崎が建つ場所にありました。平安時代末期の説話集「今昔物語」にも載っている犬頭糸伝説と、糟目犬頭神社の名を取って名付けたのではないかと想像できます。こちらの台座はいつでも見られます。

犬の頭は糟目犬頭神社に祀られました。では、切り離された胴体及び尻尾はどこに行ったのでしょう。宮地町から南へ約2㎞離れた下和田町にある犬尾神社（けんびじんじゃ）に、白い犬の尾が祀られているといわれています。

犬尾神社の創建は987年（永延元年）。祭神は彦火火出見尊（ひこほほでみのみこと）と紀州熊野よりお迎えした熊野大神です。普段は背の高い木々に囲まれた静かな神社ですが、秋の例大祭は賑やかに行われます。見どころは長さ20ｍもある大幟（おおのぼり）。例大祭が行われる前日に町内の男性陣が総出で大幟を立てていきます。大幟を竿立て（さおだて）と呼ばれる道具を用いて立てる様は必見です。

糟目犬頭神社も犬尾神社も六ツ美地区にあり、その距離はたった2㎞。片方だけとはいわず、ぜひ両方に足を運んでお参りしましょう。

◯参考文献
「岡崎市史17」／編纂：岡崎市
「ふるさと六ツ美西部」／編集：六ツ美西部学区ふるさと読本編集委員会
◯糟目犬頭神社data
■場所：愛知県岡崎市宮地町馬場31
◯犬尾神社data
■場所：愛知県岡崎市下和田町字北浦24
※秋祭りは10月第4土曜日に開催

◯関連学区まちものがたりリンク
41六ツ美西部学区まちものがたり
40六ツ美北部学区まちものがたり