受け継がれる伝統。ワタナベ鯉のぼりの武者絵幟

公開日:2026.03.19     暮らし
岡崎には、「武者絵幟(むしゃえのぼり)」をすべて手染め、手づくりで制作し、伝統を守り抜いている会社があります。

岡崎の伝統産業である武者絵幟は、国の「伝統工芸品」に指定された名古屋節句飾の種類の一つであり、ワタナベ鯉のぼり株式会社はこの伝統を受け継いで武者絵幟を作り続けています。

この記事では、武者絵幟の歴史と伝統についてご紹介します。

武者絵幟とは

武者絵幟とは、男児の誕生を祝い、無病息災や立身出世を願って、端午の節句(5月5日のこどもの日)に掲げられる幟(のぼり)です。
戦国時代に戦場で掲げられた武士の軍旗である旗指物(はたさしもの)などが、江戸時代中頃に縁起物として「端午の節句」の祝いの幟として立てられるようになったことが起源と言われています。

幟には、徳川家康公をはじめ、豊臣秀吉、加藤清正、川中島の合戦、金太郎など、成長を願うにふさわしい人物や場面が描かれており、それぞれの絵柄ごとに「健康長寿」や「人生に勝つ」といった意味が込められています。

発祥・発展の地 岡崎

江戸時代中期、三河国土呂(とろ)(現在の岡崎市福岡町)は、手染め幟の製造に欠かせない良質な三河木綿の産地でした。

染めの技術も発展しており、染物の糊を落とすことに適した清流が流れていたこと、さらに蒔絵(まきえ)や箔押し、錺(かざり)金具などの伝統工芸に携わる職人が多く集まる土地であったことから、武者絵幟の発祥・発展の地となりました。

ワタナベ鯉のぼりの歩み

  • ワタナベ鯉のぼり株式会社 代表取締役社長の渡辺要市さん

    ワタナベ鯉のぼり株式会社 代表取締役社長の渡辺要市さん

  • 伝統マーク

    伝統マーク

ワタナベ鯉のぼりは、1904(明治37)年に名古屋市で創業して以来、名古屋友禅の流れを汲んだ「かなめ染」と呼ばれる染色技術を受け継ぎ、武者絵幟や鯉のぼりの制作を続けています。
1912(大正元)年には、現在工場のある岡崎市福岡町に拠点を移し「渡辺幟店」を開業。

また、2021(令和3)年には、武者絵幟や鯉のぼりなどの幟旗類・人形・雪洞(ぼんぼり)などから成る「名古屋節句飾」が国の伝統的工芸品に指定されました。
これにより、ワタナベ鯉のぼりの武者絵幟や鯉のぼりも伝統的工芸品と認められ、職人3人が伝統工芸士に認定されています。

伝統的工芸品の指定を受けた技法で制作される武者絵幟には、「伝統マーク」を使った伝統証紙が貼られており、「かなめ染め」の技術や大正時代から伝わる下絵を用いて、手染め、手づくりで制作されています。

制作工程

制作は、以下の手順で行われます。

①筒引き
厚手の綿布に、モチ米、ぬかを練った糊で下絵を描きます。この輪郭の滑らかさで模様の出来栄えが決まるため、筒引きには10年の熟練が必要とされています。

②色付け
4~6人の職人が約15色を丹念に塗っていきます。薄い色から順番に、表と裏を塗ることで独特の重厚な色彩が生まれます。

③ぼかし
染料が十分に乾ききらないうちに色を塗り重ねて「ぼかし」を行います。勢いのある筆さばきが必要となる作業です。

④水洗い
筒引きで引いた糊を落とします。糊が落とされた部分が白い線となり、武者絵幟の輪郭になります。

⑤乾燥
天日干しで約半日。色が際立ち、色落ちもなく、耐久性のある武者絵が出来上がります。

⑥顔書き
武者絵幟に生命が吹き込まれる工程です。仕上がりの良し悪しも全てここで決まります。

⑦家紋付け
お客様の家紋を入れます。

⑧完成
武者絵幟の完成です。
筒引き
色付け
水洗い・乾燥
顔描き

受け継がれる伝統と、未来への挑戦

  • (左)ベランダ用武者絵幟(右)武者絵タペストリー

    (左)ベランダ用武者絵幟(右)武者絵タペストリー

ワタナベ鯉のぼりの武者絵幟は、創業当時から、すべて手染め、手づくりで制作されています。

手作業で制作される武者絵幟は、一点ごとに表情が異なり、あたたかみがあります。
大量生産では生み出せない趣があり、家族の思い出の存在となることでしょう。

「日本の伝統文化として、子どもを大切にするという気持ちや文化を継承していきたい」と、代表取締役社長の渡辺さんは語ります。

近年は住宅事情の変化に合わせ、サイズを抑えたベランダ用武者絵幟セットなども登場しており、変化に適応する工夫が重ねられています。
  • 大気中のCO2や水分を吸着しながら空を泳ぐミライの鯉のぼり「MOF_NOBORI」

    大気中のCO2や水分を吸着しながら空を泳ぐミライの鯉のぼり「MOF_NOBORI」

また、伝統工芸士による出張ワークショップを市内外で開催しています。
コンベンションセンターやホテル、商業施設、博物館など、さまざまな会場で行われており、参加者は実際に筆を手に取り、絵付けを体験することができます。

こうした体験は、手仕事の面白さや魅力を伝えると同時に、伝統工芸を身近に感じてもらうきっかけにもなっています。

さらに、新たな分野への挑戦も続けており、その一例が、大気中のCO2や水分を吸着する新素材「MOF(金属有機構造体)」を用いた鯉のぼりの制作です。
新素材を従来の染めの技術に取り入れるため、試行錯誤を重ね、完成した鯉のぼりは、大阪・関西万博の会場で空を泳ぎました。

まとめ

120年以上続く伝統技法を守り、制作される武者絵幟。
空に掲げられた武者絵幟の一枚一枚には、子どもの健やかな成長を願う家族の姿と、布に向き合い制作を行う職人の仕事があります。

岡崎で育まれたこの伝統は、今も職人の手によって受け継がれ、現代の暮らしに息づいています。
■ワタナベ鯉のぼり株式会社
住所:愛知県岡崎市唐沢町1丁目14番地(本社営業部)
   愛知県岡崎市福岡町西後田10番地3(工房 / 店舗)
電話:0564-21-8374