スペシャル対談「レーシングドライバー・中嶋一貴さん × ラリードライバー・勝田貴元さん」

公開日:2019.10.25     Discover Okazaki
2020年11月、WRC(世界ラリー選手権)が日本で開催されることが決まりました。
しかも愛知県と岐阜県を舞台に開催され、ここ岡崎市も開催エリアに含まれており、開催時には、国内外から多くのかたが観戦に訪れ、大きな盛り上がりが期待されます。
今回は、世界的なモータースポーツであるWRCの魅力などについて、岡崎市と愛知県に縁のある2人のドライバーに語っていただきました。
岡崎市出身のレーシングドライバー・中嶋一貴さんと、愛知県長久手市出身のラリードライバー・勝田貴元さん。
世界で戦う2人のドライバーによる貴重なWeb対談です。

WRCが10年振りに日本に復活し、愛知・岐阜で開催されます

【中嶋】
10年前は、まだ自分にとってラリーがそこまで身近ではなかったですね。もちろん、日本のメーカーが出ていましたからニュースとしては知っていましたけど、観に行ったこともなく、なんとなくやっているなという印象でした。
でも、今はトヨタ自動車がラリーに参加していますし、勝田君も出場しています。だから今までよりも身近に感じるようになりました。その中でWRCが日本で開催され、しかも自分の地元である愛知県で走るっていうのは、タイミングも含めて大きなことだと思います。

【勝田】
 10年前に日本でWRCが開催されていた頃は、僕はまだカートレースに出場していましたね。ラリー競技のことは知ってはいましたけど、一度か二度、北海道へ観に行ったくらいです。だから自分が10年後に日本開催のラリーに出場するなんて想像もしていませんでした。しかもその開催地が自分の生まれ育った愛知県だというのは感慨深いですし、運命的なものを感じますね。

【中嶋】
勝田君は、地元は長久手だよね?

【勝田】
はい。セントラルラリーでは長久手のモリコロパークに本部が置かれますが、実家から近いんですよ。

岡崎市民にWRCの見どころを教えていただきたい

【勝田】
 ラリーは、一般道を封鎖して競技車両が全開で走れるコースを作るんです。だから競技で使う道はもちろんクローズドコースなんですけど、コースからコースまでの移動は、競技車両が一般道を一般車両に混じって、同じ交通ルールで走るんです。競技中の全開走行はもちろん見どころですけど、競技車両なのに一般道をゆっくり走っている様子も不思議で面白いですよ。

【中嶋】
ラリーは少しはみ出したら木にぶつかりそうな山道でもとんでもないスピードで走るので、実際に目にしてもらって、迫力を感じてほしいですね。
さっき勝田君が言ったように、ラリーカーがコース間を移動するときには一般道を一般車両と同じようなスピードで走りますし、ときには道路脇で車のメンテナンスをしていることも普通に見られます。何ならドライバーたちと会話ができてしまうくらいの距離感なので、サーキットのレースとは違ってドライバーとファンの距離がとても近い競技ですね。

日本でのはモータースポーツというとF1の印象が強いですが

【勝田】
フィンランドに住み始めて感じたのは、ラリーの認知度が高いというか、競技を知っている人がものすごく多いんです。国技といってもおかしくないくらいです。もちろんF1も人気で、テレビでいつも放送していますから、一般の人も知っている競技です。
日本では、普通の日のお茶の間のニュースなどで、F1がどうだとかラリーがどうだとか放送していないじゃないですか。でもヨーロッパでは普段から、ドライバーへの取材やインタビュー、レース結果などを日常的に放送しています。そのことから一般の人がモータースポーツに関する情報を欲しているのがわかりますし、それくらい浸透しているんです。今はまだギャップがありますが、いずれは日本にも同じくらいモータースポーツの文化が根付いてほしいと思っています。

【中嶋】
ラリーとサーキットのレースは全然違う競技です。サーキットのレースでいうと、皆さんまずはF1を想像されると思うんですけど、ラリーとF1とではドライバーに求められるものが違います。その中で世界で最高峰のドライバーたちが戦っているのがWRCの世界なので、それが日本で開催されるっていうのはとてつもないことなんですよ。

サーキットのレースとラリーの違いについて触れられましたが、具体的には

【勝田】
さっきお話ししたように、ラリーは普段一般のかたが使っている道を走る競技ですから、観ているかたは「この道をこんなスピードで走ってしまうんだ」という違和感を覚えるでしょうけど、これも楽しみ方の一つです。一般道を全開で走れるのはラリーならではの特徴で、それが僕が最初に思いついたラリーとレースの違いです。
あと、ラリーの場合はコドライバーと呼ばれるナビゲーターが助手席にいるんです。コースの案内や時間のコントロールを始め、ドライバーのマネジメントを全てやっていますし、車が壊れたときには力を合わせて修復することもあります。だからドライバーとコドライバーの信頼関係が本当に重要で、それも大きな違いですね。

【中嶋】
サーキットのレースは基本的に同じコースを周回するので、じっくり練習して細かいところまで準備して本番に臨めますけど、ラリーは事前の走り込みが少ないんだよね?

【勝田】
そうですね。本番前に2回試走ができますが、そのときは通常の速度制限内で走ります。だから、本番になって初めて全開で走ることになりますね。

【中嶋】
オンボードのビデオなどを見て学習はするの?

【勝田】
サーキットでもそうだと思いますが、ラリーでも特に危ないとされるコーナーは決まっていたりするので、過去に同じコースを走った映像を見て予習したりしますね。

【中嶋】
その点で、ラリーはほとんどコースの情報がない状態から走らなくてはいけない競技なんです。だからこそコドライバーとの関係が重要だし、ビデオを見て予習するとか、車に乗っていないときの準備がすごく大事だという印象があります。情報が少ない中で全開で走る競技なので、ドライバーの対応力が問われます。そういう点で、サーキットのレースとラリーは全然違う競技と言っても良いと思います。
あとは、レースではトータルのタイムも重要ですが、他の車との競争の中で一番になるのが大事という考え方です。でもラリーではタイムをいかに縮めるかという点が重要になるので、ラリーの方がより自分との戦いという面が強いんじゃないかな。

【勝田】
そうですね。特にコースを走っている最中には他の競技者とのタイム差が全くわからない状態なので、自分の中でのペースコントロールが大事になります。あまり惑わされずに、自分のペースを貫いて走りに集中することが勝利の鍵になると思います。ラリーを始めた当初はそのコントロールができず、いっぱいクラッシュしましたし、そういうところは難しいですね。

【中嶋】
サーキットのレースでは、走っているときに他の競技者のタイムや、どの区間ではどの車が速いか遅いかといった情報もリアルタイムに入ってきます。他者と一緒に走っていれば、自分の眼で走りを観察できますし、上手い人をまねして走ることもできるんですけど、ラリーはそういった情報がないので難しいんだろうなと思いますね。

お互いのここがすごい!というところなど

【中嶋】
レーシングドライバーの立場からすると、尊敬しかないですね。絶対的なスピードはサーキットのレースの方が速いですけど、道幅や環境に対してのスピードでは、ラリーってありえないくらい速いんですよ。そのスピードで車をコントロールできる技術はもちろんですし、長い距離を走る中で1回でもクラッシュしてしまうと総合的な成績がほぼダメになってしまうという状況下で、競技全体をマネジメントする能力がすごいです。今までレーシングドライバーも何人かラリーにチャレンジしてきましたけど、スピード的には走れても、そのマネジメントの部分が難しいんです。それは自分にもなかなかできないことだと思うので、尊敬しています。


【勝田】
僕がカートレースをやっていたときには中嶋選手がF1に出場していて、今こうして対談しているなんて想像もできないくらいかけ離れた存在でした。なので、すごく違和感があります。中嶋選手はF1を経験して、今はWEC(世界耐久選手権)で戦っています。僕なんかではいまだに想像できない世界ですが、サーキットのレースはラリーと違って同じところを走る分、人間が感じられるか感じられないかっていうギリギリの時間まで突き詰めて走っています。ラリーはコンマ1秒とか、せいぜいコンマ0.5秒という世界なんですけど、レースでは1000分の1秒とか、それくらいの単位でタイムを削る作業をしていると思うので、すごいことをやっているなと思います。
実際、ル・マン24時間レースの夜とか、いくら道を知っているサーキットとはいえ怖くないですか?中嶋選手は以前、「知っている道でも温度によって変わるし、けっこう毎周ギリギリまで攻めて走らないとダメなんだ」と言っていましたが…。

【中嶋】
見えるからね、一応。ラリーの方が怖いから。だって道の先見えないんだもん。

【勝田】
慣れです慣れです。僕も今できているんで、今生きているんで大丈夫です。中嶋選手もやろうと思えば。

【中嶋】
いや、見ているだけで十分です(笑)

「ドライバーあるある」を教えてください

【中嶋】
意外と皆さんに知られていないのは、日本の国内のレースだと、そもそも日本の運転免許証が有効でないとレースに出られないんです。免停になると出られないから、免許の点数は大切にしなくてはいけない。
ラリーの話で面白いなと思ったのは、コドライバーのことですね。それこそ競技中ずっと一緒にいることになると思うんですけど、どうなんですか?

【勝田】
車の中でずっと一緒ですからね。2人の違う人間が同じ車に乗って、勝ちたくて戦っていくので、ちょっとしたことで言い合いになったりする選手もいます。うまくいかないときにピリピリしたりとか。そこはラリーのあるあるかなと思います。
あと、免許に関して言えば、ラリーは一般道を使うので、そもそも免許がなかったら競技に出られません。ただ、ラリーはコドライバーがいるので、ドライバーが何らかの理由で免許をなくしてしまったときにコドライバーが代わりに運転することも、レギュレーション的にはありです。実際にWRCのトップカテゴリでコドライバーが運転したこともあったんです。ドライバーが横から目茶目茶指示して走っている映像が残っていますよ。

お互いにエール交換を

【中嶋】
ラリーはサーキットのレース以上に危ない競技だと思うので、くれぐれも身体に気をつけて。今まで順調にステップアップしてきて、WRCのトップカテゴリにデビューされたわけなので、これからも焦らず経験を積んで、チャンピオンを取れるようにしっかりがんばっていってください。日本人が活躍すると盛り上がりが全然違うと思うので、今がすごくチャンスだと思うし、ぜひ勝田選手にその道を切り開いていってほしいです。

【勝田】
中嶋選手とは普段から食事に一緒に行ったり、とてもお世話になっています。僕がカートレースをやっているときは中嶋選手がF1に出場していましたし、本当に憧れていました。僕と同じように、ル・マンやWECでの中嶋選手の活躍に夢をもてるという若い選手がきっといると思うので、彼らに夢を与え続けていただきたいですし、来年もチャンピオンを取ってほしいです。あとは、焼肉を食べたいので連れて行ってください(笑)

クルまつりに来場する岡崎市民にメッセージを

【勝田】
クルまつりでは、僕が運転するラリーカーが岡崎のステージを走ります。皆さんもびっくりするぐらいの大迫力で、きっと楽しめると思います。僕だけではなく、色々なラリーカーが次々と走ってくるので、ぜひ最後まで見てください!

【中嶋】
残念ながら今年はスケジュールが合わなくてクルまつりに参加することができないのですけど、代わりにラリーがやってくるということで、ぜひ本物のラリーの迫力を楽しんでいただけたらと思います。どうか一日、皆さん楽しんでいってください。
写真提供:トヨタ自動車株式会社