伝統産業「やはぎの矢」ー岡崎と矢の歴史ー

公開日:2026.08.14     暮らし
岡崎市を流れる矢作川の流域には、古くから、矢を作るのに適した竹(矢竹・やだけ)が広く生えていました。
「矢作(やはぎ)」という地名は、矢作部(やはぎべ)と呼ばれる矢作りの職人たちが多く暮らしていたことに由来するといわれています。

また、岡崎市内には、創業明治3年(1870年)、150年以上の歴史をもつ矢の製造工房「小山矢(こやまや)」があり、矢作川流域で切り出した矢竹を使用し、現在も伝統的な製法で竹矢を作り続けています。

今回は、岡崎と矢の歴史をたどりながら、現在も受け継がれる伝統産業・やはぎの矢づくりをご紹介します。

岡崎と矢の関わり

矢作川流域で切り出した矢竹を使用して作った「やはぎの矢」は、岡崎の伝統産業のひとつであり、あいちの郷土伝統工芸品にも選定されています。

岡崎と矢の関わりは矢作町にある矢作神社からも知ることができます。
  • 矢作神社 本殿

    矢作神社 本殿

  • 境内には矢竹が祀られている

    境内には矢竹が祀られている

矢作神社
創建年代は明らかではありませんが、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東へ勢力を広げるために進軍する際に、軍神として、荒ぶる力で災いをはらい、人々を守る英雄神として知られる素戔嗚尊(すさのおのみこと)を祀ったことが起源とされています。
  • 矢作神社に祀られる日本武尊像

    矢作神社に祀られる日本武尊像

矢作神社に伝わる日本武尊の伝説
日本武尊が敵対する勢力を平定するため、矢作部に矢づくりを命じます。しかし、矢を作るための竹は矢作川の中州にあり、川の流れが速く、矢作部は竹を取ることができませんでした。すると、一匹の蝶が人の姿になり川の中州に生える竹を取ってきました。その竹で矢作部が一夜で一万本の矢を作ったと言い伝えられています。

創業明治3年(1870年)
150年以上の歴史をもつ矢の製造工房「小山矢」

矢作の地名の由来や地域に伝わる伝説から分かるように、岡崎でははるか昔から矢づくりが行われてきました。

ここからは、そんな歴史のつながりを受け継ぎ、現在も伝統的な製法で竹矢を作り続けている工房「小山矢(こやまや)」をご紹介します。
小山矢の歴史は、静岡県三ケ日で初代・小山嘉六氏が矢師となったことから始まります。
その後、昭和元年(1926年)に三代目が豊橋市で弓具店を開業しました。

昭和20年(1945年)、四代目の頃に戦時中の疎開がきっかけで岡崎へ移ります。
当時は矢づくりを中断し、四代目の妻の家業である繊維業を手伝っていました。

そして昭和30年(1955年)矢づくりを再開。以来、岡崎での製造は今年で71年を迎えます。
矢の軸の素材は、主に竹、アルミ、カーボンの3種類。
小山矢での製造割合としては、竹製 約3%、アルミ製 約70%、カーボン製 約30%です。
北は北海道から南は九州までの全国から注文が寄せられています。

弓道などの競技で使用されるのは、アルミ製、カーボン製です。一方、竹製の矢は、弓道家の高段位者や神事での奉納・奉射など、伝統文化と関わる場面で使用されています。

軸の素材は3種類ですが、競技者の身長や性別によって太さや長さが変わり、羽根の形や色も様々です。
販売店には数多くの軸や羽根が並び、種類の豊富さに目を引かれます。

昔ながらの手作業で行われる竹の矢づくり

小山矢の七代目矢師・小山泰平さんにお話しを伺いました。

小山矢は伝統的な竹の矢づくりに加え、羽根の染色技術も磨いてきました。
  • 矢の変化。工程を経てまっすぐになっていきます。

    矢の変化。工程を経てまっすぐになっていきます。

竹の矢づくりの工程は細かく分けると約70もあり、完成までに1年以上かかります。

大きく分けて工程は以下の手順で行われます。

・切り出し、乾燥などの準備
・荒矯(あらだめ)し
(削ったり火を通したりして矢の軸となる箆(の)をまっすぐに整える工程)
・箆の艶が出るまで研ぐ工程
・羽根を付ける工程
矢は4~6本を1組とすることが多いため、それぞれの太さや重さにばらつきがないようにする必要があります。
そのため、竹の曲がりを整える「荒矯し」は、特に高い技術が求められる工程です。
竹は自然素材のため一つとして同じものはなく、一本一本の状態に合わせて調整しながら作業を進めています。
また、小山矢の技術として、羽根の色付けがあります。
かつては鷲の羽根を使うことが主流でしたが、現在は希少性が高く使用を制限されることもあるため、手に入れやすい七面鳥の羽根を鷲羽根風に染色する技術を開発しました。

現在では、矢にも個性を取り入れるかたが増え、鷲羽根風の染色だけでなく、赤や青などに染色された羽根が付けられた矢が並びます。

矢づくりへの想い

最後に、矢づくりへの想いを伺いました。

「お客様に安心・安全な矢をお届けしたいという想いで矢づくりに取り組んでいます。
また、矢は1人だけでは作ることができないので、社員やお客様への感謝の気持ちを忘れないことも大切にしています。
昔ながらの製法も守りながら、新たな技術や素材も受け入れ、勉強を続けていきたいと思っています。」
矢竹に恵まれた土地から始まったやはぎの矢づくりは、地名の由来にもつながる岡崎ならではの歴史です。時代とともに素材は変化しながらも、職人たちは伝統の技も守り続けています。矢に込められた歴史とものづくりの精神は、岡崎の大切な財産として未来へ受け継がれていきます。
■有限会社 小山矢
住所:愛知県岡崎市福岡町北居土47‐1
電話:0564-54-5025