皆で土をこねて塗って、家を作ろう どろんこハウス作り体験記

公開日:2017.10.06     子育て
美合幸田線(県道480号線)の、竜泉寺町辺りをひょいと入った先に「さんじゅ荘」はあります。
何せ、車がすれ違うのも厳しい狭くてガタガタの山道。
初めての人は戸惑うだろうなぁと思っていたら、案の定、前方から車がバックのまま引き返してきました。「この先行き止まり Uターンできません」の標識に不安を募らせ、引き返してきた家族連れです。
その先の光景に、訪れた人はもっと度胆を抜かれることでしょう。
突然、豊かな自然が広がり、そこにたたずむ古民家のような建物「さんじゅ荘」。
実はここ、土壁建築を主軸とする市内の実験ハウス。建材としての土の使用を検証するための施設ですが、何だか秘密基地や隠れ家みたいです。
平成29年8月27日ここで、「どろんこハウス」作りのワークショップが開かれました。

「どろんこハウスって何?」。そのものズバリ、泥で作った家です。
不思議に思うかも知れませんが、もともと日本の建物は、ほとんどが土で作られていました。

土壁の家です。

材料はすぐそこ、足元にあります。完全なる自然素材。
合成樹脂や金属を材料とする新建材と違って、シックハウス症候群などとは無縁です。
そして壊す時は、そのまま大地に還せばいいのです。

現在、日本の土壁建築は衰退しつつあります。
「未来を担う子ども達に、泥んこ遊びを通じて土による家作りを知ってもらおう」
この呼びかけに応じ、この日、保護者と子ども達、約50名が参加しました。

参加したお母さんの一人がおっしゃいました。
「子どもに泥んこ遊びを体験させたくて」
泥んこ遊び…そういえば私もしたことがないなぁ。
さらに、土で家を作る?正直いってピンと来ません。木造だとか、コンクリート造りなら分かるんですが。
敷地の一角に、竹で組んだドーム型の小屋のような物が用意されています。
どろんこハウスのベースです。何だか鳥籠みたい。帽子のようにも見えます。
すぐ横には大量の泥。土とスサ(藁などの壁土にまぜて、ひび割れを防ぐつなぎとする材料)と水を捏ねて作られた今日の主役です。
波打っています。泥のプールです。


スサを加えるのは強度を増すため。繊維が土のつなぎになるのだそうです。
「臭いだら。ヘドロみたいな臭いがするだら。
でもこれはスサが発酵してるからで、汚くないでな」と言われました。
ヘドロを嗅いだことがないのですが、そう言われてみれば確かに少し臭いかな。
いやちょっと待て。それ以前に、そもそも土を嗅いだことなんてありましたっけ?
土をこね直します。腰を入れて、ガッツリと
子ども達が泥のプールで遊び始めました。
最初は恐る恐る、服や手足の汚れを気にしながら。
しかし次第に馴染んでくると、嬉しそうに歩き回ったり、泥人形を作ったり、投げっこしたり。雪合戦ならぬ泥合戦です。
もう体中、泥だらけ。お母さん達、明日の洗濯が大変ですね。
「もういっそのこと、泳いじゃえば??」の私の呼びかけには、さすがに応えてくれる子はいませんでした。
さあ、どろんこハウス作り、スタートです。
泥をすくい、塗っていきますが、手にするのはちょっと勇気がいるなぁ。
まさにドロドロです。
泥を乗せる「コテ板」は、建築廃材で作りました。
あれ、手で持ってみると思ったより重たい?水分が含まれているのは分かるとして、ひょっとしたらスサの発酵菌の仕業?

これを竹の下地に塗るワケですが、予想に反して簡単にくっつきます。粘土みたい。
だんだん楽しくなってきましたよ。
私の手と泥が一体になって、壁面に絵を描きます。
自由です。どんな形も装飾も可能です。そうだ、これは造形の楽しさですね!
大きく曲線を描いてみました。たゆたう波のようです。

他の参加者の皆さんも同じと見えて、次第に表情が変わってきました。
大人も子どもも、すっかりはまってしまった模様。
内側を黙々と塗っています。すごい集中力
見事なコテさばき
こちらの若いお父さんは、ワザを目で見て盗み、挑戦です。
すると…何と、お子さんも真似し始めましたよ。
子どもが窓に乗せた泥の塊。シルエットがネコみたいです。そこで、皆でヒゲを付けて目玉を入れて…泥んこネコ誕生!
作業終了。
しかしこれで完成ではありません。
後日、内壁や外壁の仕上げを行いますが、泥に何を入れても良いそうです。さあ、参加者のアイデアの見せ所です。
私はビー玉や、使わなくなったアクセサリーを埋め込もうかな。あっ、日時計や羅針盤を作ってもいいかも知れません。
「内側担当」の少女もきっと、とびっきりのアイデアを考えてくれることでしょう。
後日、再びどろんこハウスを訪れました。
泥んこネコ、すっかり住人になりきっています。
壁面に描いた波模様は雨や風に洗われ、ちょっとしたアート作品みたいではありませんか。
こうして振り返ってみると、あの泥んこ遊びの心地よさが甦ります。
そして大人も子どもも一緒になって、一つのハウスを作る達成感。
古より人々は、こうして協力し合い、地元の素材で創意工夫を重ねながら、一軒一軒の家を築いてきたのかも知れません。
しかし土って、すごいですね。
作物を育てるだけでなく、建物にもなるなんて。
解体して大地に返せば「この土は、もとは代々のご先祖様の家だったんだ」と、愛着もわくことでしょう。
土には、家族の思い出さえ眠っているんです。
だからこそ人々は、地域の土を大切にしてきたんですね。


協力:株式会社山共建設