「人と人とのつながりが、 リノベーションまちづくりを成功に導いて」

公開日:2017.11.06     暮らし
(物件オーナー)近藤善紀さん、(起業者事業主)中根利枝さん、(家守事業者)山田高広さん

今回は、岡崎市が中心市街地を活性化させるために開催した「リノベーションスクール」から生まれたステキな出逢いをご紹介します。

リノベーション?リノベーションまちづくり?家守?

「リノベーション」という言葉をご存知でしょうか?リノベーションには、老朽化した建物の性能を元に戻すための修復の意味合いが強い「リフォーム」とは違い、修復だけでなく、用途や機能を変更して性能を向上させたり、価値を高めたりして、より良く作り替えるという目的が含まれています。
そして、岡崎市で行われている「リノベーションまちづくり」とは、「遊休不動産(廃業や核家族化、倉庫化などにより、長年使われていない空き家や空きビル、空き地)」をリノベーションすることにより、様々な担い手や多種多様な業種が集まり、まちの中を人々が行き交って地域が活性化していくことを目標にしています。
ここで重要になってくる「家守(やもり)」とは、江戸時代に借地管理や家賃徴収、店子の生活面の面倒などを引き受け、地域の管理人的な立場を担っていた大家のことを指していましたが、現代版の家守は、行政や地域住民と連携し、建物管理や入居者支援だけでなく、まちの価値を高めながら、総合的にまちを活性化させる役割も担っています。

2016年2月に「第1回リノベーションスクール@岡崎」がスタート

「リノベーションスクール@岡崎」とは、岡崎市と民間企業が連携し、役割を分担しながら共にまちづくりを進めていくために、新たな事業を始めたい人や、空きスペースを活用して自分の経験を生かしたい人々を募り、事業展開へ導いていくための講義を行う実践型スクールのことです。
各方面の第一線で活躍する実践者(ユニットマスター)と受講生(ユニットメンバー)たちが、3日間にわたり、まちなかにある実際の遊休不動産や公共空間を対象物件にして、魅力的なリノベーションモデルをつくりだしていきます。

物件のオーナーは、岡崎市八幡町で家具屋を営んでいた近藤さん

「この人なら間違いない。中根利枝さんだったら貸してもいいな、と思ったんです。リノベーションスクールでも一番多くの質問をしていましたし、プレゼンテーションの情熱も一番伝わってきました。日々信頼感が増してますよ」と、第1回目のスクールで対象物件のオーナーだった近藤善紀さんは語ります。
近藤さんのお宅は、明治のころから八幡町で注文家具を製作する「上野屋家具店」を営んでいました。しかし、8年前の平成21年に家具職人だった父親が店を閉め、シャッターを下ろして長い月日が経っていました。
「ずっと建物だけが残った状態でした。閉め切っていたので、空気も通らないために、建物が傷みそうでしたね。そんな時に、市の商工労政課のかたから、2016年第1回リノベーションスクール@岡崎の対象物件になってほしいとの話しがきたんです。今から思えば、いろいろなタイミングがよかったんでしょうね」
その後、家守の山田さんや、事業主の中根さんとも様々なところで縁がつながっていたこともわかり、この事業が着実にスタートしていきました。

「事業主のしっかりとした基本コンセプトや夢に感激し、契約に関する複雑なことは家守にお任せすることができて、貸す側としては安心感があります。もう1年たちますが、この先も中根さんたちに使っていただきたいと思っています。このあたりは閉店したお店も増えてきました。でも、ふらっと立ち寄って買い物をしたくなるような人の流れが生まれると、まちに特色が現れて、活気が出てきますよね」

近藤さんは、父親の生み出す家具作りの音を聞きながら育ってきました。その音が聞こえなくなって久しいですが、当時の面影を残したまま建物を活かし、明るい雰囲気に仕上がったことがとても嬉しいそうです。
「先日、おかげさまで1周年になりました、と言って、プレゼントを持ってきてくれたんですよ。私はすっかり忘れていたんですが、そういったちょっとした心遣いが嬉しいですよね。貸してよかったな、と思います」と、近藤さんはにこやかに語ってくれました。

事業主は、透明感あふれる笑顔の素敵な中根さん

「とにかくやってみよう」と、家守の山田高広さんに背中を押されて、はじめちゃったんです」と、ニコニコ笑顔の中根さん。2016年第1回リノベーションスクール@岡崎の参加をきっかけに、八幡町に「wagamama house」をオープン。素材にこだわったお惣菜の量り売りだけでなく、店内でランチとして食べることも可能で、手作りケーキやオーガニックコーヒーなども提供しています。
「30代最後の年に、いろいろなストレスから声が出なくなってしまったんです。そんな時に縁があって、家族でハワイ島を訪れたんですね。豊かな自然につつまれて、スピリチュアルな日々をただただ楽しみました。そして、そこでオーガニック野菜やフルーツを好きな分だけ買うことができ、食べることもできる自然食品のスーパーマーケットの存在に感動しました。こんなお店が持てたらいいなぁと。それがwagamama houseの最初のきっかけですね」

中根さんは、次第に心から癒されて、自分の人生を歩きだそう、自己肯定感を持とう、と思えるようになり、40代になってからは自分のことを好きでいられるようになったそうです。
また、中学生の子を持つお母さんとして、親の希望を押し付けるのではなく、子どもをサポートするという立場を大切にしているそう。
「親が自分の人生を楽しんでいないのに、子どもたちが楽しいはずありませんよね。今、一緒に働くスタッフも子育て真っ最中です。みんな忙しくしながらも、生き生きと働いていますよ。夏休みは、子ども連れのお客様も多くてにぎやかでしたが、オーナーの近藤さんも温かく見守ってくださり、本当に感謝しています」


「リノベーションスクールで学んだ日々は、とっても大変でしたが、夢に向かって走り続けてきたからこそ、今があると思っています。この場所をお借りして、いろいろなご縁がいただけました。お母さんが変われば、子どもが変わる。そして、地域が変わって、学校も変わる。暮らしが楽しくなるようなしくみをつくって、wagamama houseが未来につながる場所として存在できたら嬉しいです」
少しずつ常連さんも増えて、ご近所のかたたちにも評判のお店として育っているようです。リノベーションまちづくりの基本は、やはり『人』ではないか、とつくづく感じさせるような、笑顔の素敵な事業主の中根さんでした。

家守は、地域に住む三河家守舎の山田さん

「自分が住みたいと思ったまちに居を構えたところからスタートしました。その後、暮らしを豊かにしたいと思いはじめ、まちの機能にも目を向けるようになりました。風情のある家屋など、手を加えながら直して、その町の魅力的な風景を残していきたい、と思ったんです」と、語るのは、物件オーナーと事業主の間を取り持つ家守の山田さん。
「僕は、オーナーさんから物件を任せてもらい、何かを始めようと考えている事業主さんを紹介します。そして事業内容や初期投資、家賃等さまざまな話し合いを重ねていきます。wagamama houseの中根さんの場合は、家守が改修費用を投資して、家賃という形でかかった費用を返してもらっています。契約によっていろいろなパターンがあるので、しっかりとした話し合いがとても重要になってきます」
「こんなお店を始めたいから場所を探している」「こんなことをやってみたいんだけど、いい空間はないかな」と思ってみたものの、予算はどのくらいかかるのだろうとか、複雑な契約書類の数々など、素人には難しいことが多く、はじめの一歩をなかなか踏み出すことができないかたも多いことでしょう。
しかし、この家守に頼めば、まちづくりを総合的な立場から考え、より価値あるものへと導いていってくれるはずです。

「まちづくりで思うことは、観光客やイベントで賑わうだけのまちではなく、そこに暮らす人や働く人たちが幸せを感じ、ほどよい刺激があるまちにしていきたいです。子どもたちが、頑張る大人を面白いと思ったり、若い子たちが人生を学べる場所であったり、お年寄りが住みやすいと思うようなまちづくりができたら最高ですよ」と、温かい眼差しの印象的な山田さんでした。


リノベーションスクールでは、自分のやりたいことが「本物」であれば、まわりのみんなが協力をし始めるとのこと。最終プレゼンテーションで、考え方や、使い方、将来の展望など、しっかりとした意見を伝えることができたら、もう大丈夫。あとは、まわりがポコポコと動き始めるそうです。

2017年12月1~3日には第3回目のスクールが開催されます!

第3回目のスクールとなる今回のミッションは、
『空き物件と通りを一緒に使いこなす暮らしの提案をせよ!』
『細切れに存在する駐車場の新しい活用方法を発明せよ!』
楽しみながらもしっかりとミッションをクリアし、まちの変化を生み出せる方を募集しています。3日間で、企画、デザイン、プレゼンテーション、事業収支の計算方法など実践を通して学び、最終日には不動産オーナーに向けて事業提案を行います。
スクール後は、提案内容にさらにブラッシュアップを重ね、実事業化へ向けた取り組みを進めていきます。

自分のためにやっていたら、いつのまにかみんなのために。みんなのためにやっていたら、まちづくりにつながって。さあ、あなたなら、このまち(岡崎)をどうしたいですか?